第11節/心疾患による障害
心疾患による障害の程度は、次により認定する。

認定基準
心疾患による障害については、次のとおりである。

令 別 表障害の程度障 害 の 状 態
国 年 令 別 表1 級身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの
2 級身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの
厚 年 令別表第13 級身体の機能に、労働が制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を有するもの

心疾患による障害の程度は、呼吸困難、心悸亢進、尿量減少、夜間多尿、チアノーゼ、浮腫等の臨床症状、X線、心電図等の検査成績、一般状態、治療及び病状の経過等により、総合的に認定するものとし、当該疾病の認定の時期以後少なくとも1 年以上の療養を必要とするものであって、長期にわたる安静を必要とする病状が、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のものを1 級に、日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものを2 級に、また、労働が制限を受けるか又は労働に制限を加えることを必要とする程度のものを3 級に該当するものと認定する。

心疾患の検査での異常検査所見を一部示すと、次のとおりである。

区 分異 常 検 査 所 見
安静時の心電図において、0.2mV以上のSTの低下もしくは0.5mV以上の深い陰性T波(aVR誘導を除く。)の所見のあるもの
負荷心電図(6Mets 未満相当)等で明らかな心筋虚血所見があるもの
胸部X線上で心胸郭係数60%以上又は明らかな肺静脈性うっ血所見や間質性肺水腫のあるもの
心エコー図で中等度以上の左室肥大と心拡大、弁膜症、収縮能の低下、拡張能の制限、先天性異常のあるもの
心電図で、重症な頻脈性又は徐脈性不整脈所見のあるもの
左室駆出率(EF)40%以下のもの
BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)が200pg/ml 相当を超えるもの
重症冠動脈狭窄病変で左主幹部に50%以上の狭窄、あるいは、3 本の主要冠動脈に75%以上の狭窄を認めるもの
心電図で陳旧性心筋梗塞所見があり、かつ、今日まで狭心症状を有するもの

(注1) 原則として、異常検査所見があるもの全てについて、それに該当する心電図等を提出(添付)させること。
(注2) 「F」についての補足
心不全の原因には、収縮機能不全と拡張機能不全とがある。
近年、心不全症例の約40%はEF値が保持されており、このような例での心不全は左室拡張不全機能障害によるものとされている。しかしながら、現時点において拡張機能不全を簡便に判断する検査法は確立されていない。左室拡張末期圧基準値(5-12mmHg)をかなり超える場合、パルスドプラ法による左室流入血流速度波形を用いる方法が一般的である。この血流速度波形は急速流入期血流速度波形(E波)と心房収縮期血流速度波形(A波)からなり、E/A比が1.5 以上の場合は、重度の拡張機能障害といえる。
(注3) 「G」についての補足
心不全の進行に伴い、神経体液性因子が血液中に増加することが確認され、心不全の程度を評価する上で有用であることが知られている。中でも、BNP値(心室で生合成され、心不全により分泌が亢進)は、心不全の重症度を評価する上でよく使用されるNYHA分
類の重症度と良好な相関性を持つことが知られている。この値が常に100 pg/ml 以上の場合は、NYHA心機能分類でⅡ度以上と考えられ、200 pg/ml 以上では心不全状態が進行していると判断される。
(注4) 「H」についての補足
すでに冠動脈血行再建が完了している場合を除く。

心疾患による障害の程度を一般状態区分表で示すと次のとおりである。
一般状態区分表

区 分一 般 状 態
無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふるまえるもの
軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの 例えば、軽い家事、事務など
歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起居しているもの
身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上は就床しており、自力では屋外への外出等がほぼ不可能となったもの
身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの

(参考) 上記区分を身体活動能力にあてはめると概ね次のとおりとなる。
区 分身 体 活 動 能 力
6Mets 以上
4Mets 以上6Mets 未満
3Mets 以上4Mets 未満
2Mets 以上3Mets 未満
2Mets 未満

(注) Mets とは、代謝当量をいい、安静時の酸素摂取量(3.5ml/kg 体重/分)を1Metsとして活動時の酸素摂取量が安静時の何倍かを示すものである。

疾患別に各等級に相当すると認められるものを一部例示すると、次のとおりである。

① 弁疾患

障害の程度障 害 の 状 態
1 級病状(障害)が重篤で安静時においても、心不全の症状(NYHA 心機能分類クラスⅣ)を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの
2 級1 人工弁を装着術後、6 ヶ月以上経過しているが、なお病状をあわらす臨床所見が5 つ以上、かつ、異常検査所見が1 つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
2 異常検査所見のA、B、C、D、E、Gのうち2 つ以上の所見、かつ、病状をあらわす臨床所見が5 つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
3 級1 人工弁を装着したもの
2 異常検査所見のA、B、C、D、E、Gのうち1 つ以上の所見、かつ、病状をあらわす臨床所見が2 つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの

(注1) 複数の人工弁置換術を受けている者にあっても、原則3 級相当とする。
(注2) 抗凝固薬使用による出血傾向については、重度のものを除き認定の対象とはしない。

② 心筋疾患

障害の程度障 害 の 状 態
1 級病状(障害)が重篤で安静時においても、心不全の症状(NYHA 心機能分類クラスⅣ)を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの
2 級1 異常検査所見のFに加えて、病状をあらわす臨床所見が5 つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
2 異常検査所見のA、B、C、D、E、Gのうち2 つ以上の所見及び心不全の病状をあらわす臨床所見が5 つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
3 級1 EF値が50%以下を示し、病状をあらわす臨床所見が2 つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの
2 異常検査所見のA、B、C、D、E、Gのうち1 つ以上の所見及び心不全の病状をあらわす臨床所見が1 つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの

(注) 肥大型心筋症は、心室の収縮は良好に保たれるが、心筋肥大による心室拡張機能障害や左室流出路狭窄に伴う左室流出路圧較差などが病態の基本となっている。したがってEF値が障害認定にあたり、参考とならないことが多く、臨床所見や心電図所見、胸部X線検査、心臓エコー検査所見なども参考として総合的に障害等級を判断する。

③ 虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)

障害の程度障 害 の 状 態
1 級病状(障害)が重篤で安静時においても、常時心不全あるいは狭心症状を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの
2 級異常検査所見が2 つ以上、かつ、軽労作で心不全あるいは狭心症などの症状をあらわし、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
3 級異常検査所見が1 つ以上、かつ、心不全あるいは狭心症などの症状が1 つ以上あるもので、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの

(注) 冠動脈疾患とは、主要冠動脈に少なくとも1ヶ所の有意狭窄をもつ。あるいは、冠攣縮が証明されたものを言い、冠動脈造影が施行されていなくとも心電図、心エコー図、核医学検査等で明らかに冠動脈疾患と考えられるものも含む。

④ 難治性不整脈

障害の程度障 害 の 状 態
1 級病状(障害)が重篤で安静時においても、常時心不全の症状(NYHA 心機能分類クラスⅣ)を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの
2 級1 異常検査所見のEがあり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
2 異常検査所見のA、B、C、D、F、Gのうち2つ以上の所見及び病状をあらわす臨床所見が5 つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
3 級1 ペースメーカー、ICDを装着したもの
2 異常検査所見のA、B、C、D、F、Gのうち1 つ以上の所見及び病状をあらわす臨床所見が1 つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの

(注1) 難治性不整脈とは、放置すると心不全や突然死を引き起こす危険性の高い不整脈で、適切な治療を受けているにも拘わらず、それが改善しないものを言う。
(注2) 心房細動は、一般に加齢とともに漸増する不整脈であり、それのみでは認定の対象とはならないが、心不全を合併したり、ペースメーカーの装着を要する場合には認定の対象となる。

⑤ 大動脈疾患

障害の程度障 害 の 状 態
3 級1 胸部大動脈解離(Stanford 分類A型・B型)や胸部大動脈瘤により、人工血管を挿入し、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの
2 胸部大動脈解離や胸部大動脈瘤に、難治性の高血圧を合併したもの

(注1) Stanford 分類A型: 上行大動脈に解離がある。
Stanford 分類B型: 上行大動脈まで解離が及んでいないもの。
(注2) 大動脈瘤とは、大動脈の一部がのう状又は紡錘状に拡張した状態で、先天性大動脈疾患や動脈硬化(アテローム硬化)、膠原病などが原因となる。これのみでは認定の対象とはならないが、原疾患の活動性や手術による合併症が見られる場合には、総合的に判断する。
(注3) 胸部大動脈瘤には、胸腹部大動脈瘤も含まれる。
(注4) 難治性高血圧とは、塩分制限などの生活習慣の修正を行った上で、適切な薬剤3薬以上の降圧薬を適切な用量で継続投与しても、なお、収縮期血圧が140 mmHg 以上又は拡張期血圧が90mmHg 以上のもの。
(注5) 大動脈疾患では、特殊な例を除いて心不全を呈することはなく、また最近の医学の進歩はあるが、完全治癒を望める疾患ではない。従って、一般的には1・2 級には該当しないが、本傷病に関連した合併症(周辺臓器への圧迫症状など)の程度や手術の後遺症によっては、さらに上位等級に認定する。

⑥ 先天性心疾患

障害の程度障 害 の 状 態
1 級病状(障害)が重篤で安静時においても、常時心不全の症状(NYHA 心機能分類クラスⅣ)を有し、かつ、一般状態区分表のオに該当するもの
2 級1 異常検査所見が2 つ以上及び病状をあらわす臨床所見が5 つ以上あり、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
2 Eisenmenger 化(手術不可能な逆流状況が発生)を起こしているもので、かつ、一般状態区分表のウ又はエに該当するもの
3 級1 異常検査所見のC、D、Eのうち1 つ以上の所見及び病状をあらわす臨床所見が1 つ以上あり、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの
2 肺体血流比1.5 以上の左右短絡、平均肺動脈収縮期圧50mmHg 以上のもので、かつ、一般状態区分表のイ又はウに該当するもの

⑦ 重症心不全
心臓移植や人工心臓等を装着した場合の障害等級は、次のとおりとする。ただし、術後は次の障害等級に認定するが、1~2年程度経過観察したうえで症状が安定しているときは、臨床症状、検査成績、一般状態区分表を勘案し、障害等級を再認定する。
・ 心臓移植 1級
・ 人工心臓 1級
・ CRT(心臓再同期医療機器)、CRT-D(除細動器機能付き心臓再同期医療機器)2級